2011年2月1日火曜日

黒いトイレットペーパー!?

INSEADのマーケティングの人気授業で、Market Driving Strategiesというのをとっています。これは、顧客のニーズをマーケティングに取り込むだけではなく、授業のタイトル通り、マーケットをドライブしていくことの重要性を考えさせられる授業です。

さて、「黒いトイレットペーパー」と聞くと、なんともあり得ないようなアイデアですが、これは、ポルトガルの中堅ファミリー企業のRenova社が数年前、市場に出すべきかどうかを真剣に悩んでいたケースです。

通常、ヨーロッパの先進国であれば、トイレットペーパーは家庭に十分普及しており、人口の成長が見込めない限り、市場が大きく成長することはないと考えられています。また、トイレットペーパーは価格設定が大きな勝敗要因となることから、スケールメリットを活かせるグローバル大企業(P&G等)、ないしは、流通コストを大幅にカットできるスーパーのプライベートブランド(カルフール等)が、トイレットペーパー市場で重要な地位を勝ち得ています。特にプライベートブランドは、ここ数年急速に成長しているという点で、Renova社のようなヨーロッパ拠点を中心とするナショナルブランドにとっては、大きな脅威となっています。

こうした流れに対抗すべく、ナショナルブランド各社が「トイレットペーパーにも付加価値を」と立ち上がりました。

まず最初の流れとしては、フランスのGeorgia Pacific社。3枚重ねバージョン、4枚重ねバージョンのトイレットペーパーを開発し、「破れない」「吸収力のある」をメリットに大成功しました。また、イタリアでは、Sofidel社が「4個のトイレットペーパーで10個分」をキャッチフレーズに、その名の通り、長持ちするトイレットペーパーを市場に投入し、ヒット製品として育て上げています。そしてドイツ、スイスでは、「ウェットトイレットペーパー」。これは、実に多くの消費者があらかじめ「濡らしてから」トイレットペーパーを使うという調査結果に基づいたものだそうです。

そこで、ドイツ、スイスの例からRenova社が思いついたのが、ローションと香油が配合されたトイレットペーパー「Renova Fraicheur」。フランス市場で投入され、Renova社のブランド認知を促進する足がかりとなりました。

Renova社は、「使い捨ての紙を作る会社」から「健康、安心を提供する会社」への脱皮を目指しています。そのために、広告、宣伝の仕方を変えました。有名な写真家を使い、トイレットペーパーの機能を訴えるのではなくて、Renova社の商品により満たされる生活シーンにスポットをあててブランドイメージの向上に努めました。

とはいえ、2005年時点でのRenova社の目玉商品は、未だ、「Renova Progress」と呼ばれる、付加価値のついていない日用品タイプのトイレットペーパーです。プライベートブランドの勢いはどんどん増していて、このままだと「Renova Progress」のシェアも落ち込んでしまうと見られていました。

創業一家のCEO、Paulo Pereira da Silva氏は、そこで黒いトイレットペーパーという奇抜なアイデアを考え出しました。そして、彼自身が最終的にこの商品の投入を決断しました。

「健康、安心を提供する会社」との関係は?と思わず首をひねりたくなりますが、これはあくまでもPR上の戦略。世界初の黒いトイレットペーパーでメディアの話題をかっさらい、流通の関心を引くことで、得意先を増やしていきました。売る場所が増えることで、同社の既存のトイレットペーパーの売上もあがる。このような方程式で「マーケットをドライブ」し、成功していったのです。

マーケティングにおけるコミュニケーション戦略で企業ブランドイメージの認知促進をしたい場合、確かに「意外さ」を訴えることで注目を集めるパターンが多いような気がします。Renova社の場合は、「意外さ」について、黒いトイレットペーパーという自社の商品を使うことで訴えていったという訳です。

相当の経営判断だったと思いますが、これもファミリー企業だからこそとれた一手でしょうか。

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